The Drumming of “Beat Music” Generation 〜概要〜


モダン・ドラミング以降の新世代ドラミングを考察、研究する試みエッセイです。

こんにちは。ドラマー/デザイナーの渡です。
ドラムが大好きすぎるが故に、現代の最先端ドラマーについて情報をシェアしたい気持ちが抑えられなくなってしまい、こんな記事を書くことにしました。いきなりめっちゃ長いです。事前にお伝えしておきます。
ここでは”Beat Music” Generationという呼び方で、現代ドラマーたちの作りだす新たな音楽表現を考えて行きたいと思います。
ゴスペル・チョップスやモダン・ドラマー系も取り上げますが、彼らのようなドラムの演奏技術が注目されるドラマーよりも、独自の音楽観/音楽性/プレイスタイルを持つドラマーに着目して考察、研究して行きたいと考えています。

 


*トピック
・今、ドラム界に何が起こっているのか
・”Beat Music” Generation
・モダン・ドラミングがもたらしたもの

※お断り
この文章は全て私の主観的で独断的な判断、考察、研究をもとに書かれております。そのため、事実と異なる部分や間違った情報が存在しうることを予めお伝えしておきます。ドラムという楽器の1つの考え方として軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。「ここはこういう考え方もできると思う」「ここは完全に間違ってるよ」と言ったご意見はソースと共に教えて頂けると大変助かります!

 


▼今ドラム界に何が起こっているのか
①モダン・ドラミングの誕生〜発展〜洗練化
②ゴスペル・チョップス・スタイルの台頭
③打ち込み技術の発展と逆輸入
→新たなスタイルのドラミングが発生
→名前のまだない音楽が生まれる(=”Beat Music”とここでは呼ぶこととする)
→”Beat Music” Generationの誕生
①〜③の各要素は後述にて詳しく見て行きます。
この3点が”Beat Music” Generationを考える上でのキーポイントになります。

 


▼”Beat Music” Generation
”Beat Music” Generationとして取り上げるドラマーを大まかなスタイル/ジャンル/文脈に分けてカテゴライズしてみます。今回の記事では細かく触れません。
今後は、各カテゴリ毎の詳細記事を充実させていきたいと思っています。
*ELECTRO
Mark Guiliana
Jojo Mayer
Richard Spaven
Deantoni Parks
など
*JAZZ
Marcus Gilmore
Justin Brown
Arthur Hnatek
Nate Wood
など
*HIPHOP, SOUL
Chris Dave
Cleon Edwards
Corey Fonville
など
*GOSPEL CHOPS
Dana Hawkins
Justin Tyson
など
*MODERN, FUSION
Anika Nilles
Dan Mayo
など

 


▼モダン・ドラミングがもたらしたもの
そもそも
”Beat Music”はどこから現れたのか?
”Beat Music” Generationのドラマー達に、モダン・ドラミングは何をもたらしたのか?
ということを考えていきます。
”Beat Music” Generationを考える上での土台となるこの記事の中心部分になります。

#モダン・ドラミングとは

ルーディメンタル(PAS40 Rudimentsをベースにした手順足順をセットに応用する)
フュージョン的(ジャンル越境的:ジャズ、ポップ、ロック、メタル、ファンクの文脈がベース)
上記の要素を持ったドラミングであると考えます。
『Buddy Rich Memorial Concert 1989 – Los Angeles』で伝説的なドラムバトルを繰り広げたSteve Gadd, Vinnie Colaiuta, Dave Wecklの三者をここではモダン・ドラミングの中心地点と考えます。
『DRUMMERWORLD』はこうしたモダン・ドラミング黎明期を支えた重要なプラットフォームですね。
http://www.drummerworld.com/index.html

#モダン・ドラミングの出自
『Buddy Rich Memorial Concert 1989 – Los Angeles』

Steve Gadd, Vinnie Colaiuta, Dave Wecklのドラムバトル
ここで
Steve Gadd:グルーヴ
Vinnie Colaiuta:パワー
Dave Weckl:テクニック
といった大雑把な図式に当てはめて考えてみます。
(もちろん、彼ら全員が全てにおいて卓越したプレイヤーであることは言うまでもありません)
考察ポイント:
誰に(どの要素に)共感したかでこの後のスタイル発展に影響があるのではないか?
#モダン・ドラミングの発展
三者のドラムバトル以降に現れた新たな世代。上記の三者の要素をハイブリッドしたようなスーパーなドラマーが誕生します。
ハイテクニック化が顕著な時代で、メタルの文脈からか変拍子や高度なフットワークが特徴的なドラマーが多いです。
この頃はインディペンデンスやコーディネーションがブームだったのか、音楽的な演奏よりも機械的な演奏技術に焦点が置かれている印象があります。
グルーヴパワーのハイブリッド:
Dennis Chambers, Omar Hakim など

パワー
テクニックのハイブリッド
Virgil Donati, Thomas Lang など

グルーヴ
テクニックのハイブリッド
Horacio “El Negro” Hernandez など

ハイテクニック
を極める
Steve Smith, Marco Minnemann など
考察ポイント:
この機械的な演奏技術の発展が後の「逆輸入」を可能にする土壌を作ったのではないか?
#モダン・ドラミングの洗練化
モダン・ドラミングにおける要素を新たに整理・洗練した世代。今現在のトップスタープレイヤーはこの世代?
一時期の超絶テク信仰は鳴りを潜め、音楽的な演奏を志向するドラマーが多い印象を受けます。あるいは、超絶テクを持っていることが当たり前になってしまい、その中で特徴的な要素として「音楽的な表現」が着目され始めたのかもしれません。
グルーヴパワーの洗練
Benny Greb など

パワー
テクニックの洗練
Gavin Harrison など

グルーヴ
テクニックの洗練
Tommy Igoe など

ハイテクニック
の洗練
Jojo Mayer など
考察ポイント:
全員、教則がベストセラー⇨新たなスタンダードになる⇨これでドラムを進化させるドラマーが増えたことがこの後の世代に影響?
#ゴスペル・チョップス・スタイルの台頭
グルーヴ、パワー、テクニックの要素が高度に融合した超絶ドラマーたちです。Gaddのポケット、Colaiutaのポリリズム、Wecklのリニアが超高次元で混じり合い、さらにゴスペル由来の熱量とバネが加わったまさに最先端/最強のドラミング・スタイル、、、これまでなぜか現れてこなかったこの独特で強靭なスタイルに憧れるドラマーも多いはず。最近では歌モノやラッパーのバックにゴスペル・ドラマーが起用されていることも多いですね。
Tony Royster Jr, Aaron Spears, Nick Smith, Eric Moore, Chris Coleman, Devon Taylor など
Tony Royster Jr.
Chris Coleman
Devon Taylor
考察ポイント:
動画サイトの普及により、教会でのドラムシェドで腕を磨くこのスタイルが認知され始め、それがドラマーにとっての新たな選択肢となった?

補足:聞いた話ですが、信仰心として神の前(教会)では持てる全てを全力で出すべきである、という感覚があるそうです。彼らの超絶っぷりはそういうところからきているのかも。音楽的かどうかとかそうした話ではなく、祈りそのものなんですね。

#打ち込み技術の発展と逆輸入
さて、ここでゴスペル・チョップスと同じくらい大きなインパクトを持つ話題です。
今の時代、「打ち込み(DTM)」は音楽と切っても切り離せない関係にあります。技術発展がめざましく、ミュージシャンが「生演奏をする価値とは何か?」と考えてしまうくらいには技術が進化しています。
また、ヒップホップが誕生したのを皮切りに「サンプリング」という文化も当たり前となり、もはやミュージシャンは「楽器を操る者」というよりも「音そのものを操る者」になりつつあると言えます。楽器が弾けなくても、MIDIやオーディオデータをいじれば音楽が作れます。演奏は正確で間違いがないし、自分の想定した通りの演奏が生み出せる。サンプリングすれば一流ミュージシャンの演奏を自分の曲に使うこともできます。人間は正確さでは機械に叶わないし、間違いをするリスクもある、機械なら人間ができないようなこともできる。
そんな状況において、ドラマーたちは何を「生演奏の価値」としていくかという問題に直面します。この問題意識こそが、”Beat Music” Generationを生み出すきっかけになっていると考えています。
”Beat Music” Generationのドラマーたちは皆、「打ち込み」と何らかの接点を持っています。その接し方に彼らの信じる「生演奏の価値」が見えてくるように思えます。ここでポイントになるのは「逆輸入」的な発想です。
ELECTRO一派は「打ち込みだから出来る」ような表現を人力で再現することに価値を見出しているように見えます。人間だってここまでやれるんだぜ、というマッチョイズムもあるでしょう。(テクニックの逆輸入
JAZZ一派は「打ち込みと共存する」表現を志向しているように見えます。プログラムされた範囲でしか動かない打ち込みに対して、人間的で自由な揺らぎを生演奏で加える。お互いの長所短所を埋め合わせ、より豊かな音楽表現を作って行こうとしている印象を受けます。結果として、バンド全員が生演奏だとしても、スタティックな打ち込み的パートと、アクティブな人間的パートが融合したような新しいタイプの音楽を生み出すことに繋がっています。(音楽観の逆輸入
HIPHOP一派は「打ち込み由来のうねり」に着目しているように見えます。ELECTRO一派が打ち込みの演奏技術的な難易度に着目したのに対し、HIPHOP一派はグルーヴに着目しているところが異なる点です。中でも特徴的なのはJ Dilla由来の「ヨレたグルーヴ」。「本来は気持ち悪いはずのズレ」も機械的にループすればグルーヴになる、という発想はとても革命的です。ここに着目し「新たなグルーヴ感」を生演奏に持ち込んだのがこの一派です。(グルーヴの逆輸入
MODERN一派は「打ち込みなら出来る」という理論上可能なタイプの演奏内容を人間がやってしまう、ということに価値を見出しているように見えます。具体的には、これまで難易度的に現実的ではなかった奇数連符(五連符や七連符など)やメトリック・モジュレーションの実践といったところです。打ち込みなら難なくやってしまう難しい演奏を生演奏できるようにすることで、感覚を拡張していくという、単純なドラム表現を最もストレートに突き詰めている一派でもあります。(理論の逆輸入
そして、全てに共通していることは、ソフトではなく、生の楽器が空間を振動させる、というシンプルな快感/熱量を重視していることです。
シンプルでプリミティヴな感覚こそが、デジタル時代を生きる”Beat Music” Generationの信じる「生演奏の価値」なのかもしれません。

こうしてみていくと、冒頭で触れた(▼今ドラム界で何が起こっているのか)①「モダン・ドラミング」から②「ゴスペル・チョップス」を経由したドラム技術の発展と、③「打ち込みの逆輸入」が、彼ら”Beat Music” Generationを産んだ、と考えて良いかと思います。
”Beat Music” Generationドラマーたちの新表現は、新たな音楽表現へと繋がって行きます。これまでバンド形式では出来なかったことができるようになり、生演奏におけるクリエイティヴの幅が拡がる。そして、今はまだ名前のない音楽(=”Beat Music”)が生まれてきて、シーンに流れ始めている。
私はこの”Beat Music”を愛してやまないので、もっと日本でも広がって欲しいし、ドラマーとしてシーンを盛り上げて行きたいと考えています。
この記事がそんな”Beat Music” Generationについて考えるきっかけになれば嬉しいです。