The Drumming of ”Beat Music” Generation 〜カテゴリ別考察:JAZZ編〜

モダン・ドラミング以降の新世代ドラミングを考察、研究する試みエッセイです。
これは「概要記事」に対する詳細記事になります。


*JAZZ編で紹介するドラマーたち
Marcus Gilmore
Justin Brown
Arthur Hnatek
Nate Wood
など(追加するかも)

※お断り
この文章は全て私の主観的で独断的な判断、考察、研究をもとに書かれております。そのため、事実と異なる部分や間違った情報が存在しうることを予めお伝えしておきます。ドラムという楽器の1つの考え方として軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。「ここはこういう考え方もできると思う」「ここは完全に間違ってるよ」と言ったご意見はソースと共に教えて頂けると大変助かります!

 


ここで紹介するドラマーたちは他の文脈と被るところも多々ありますので、一概に言い切れない部分も多いですが広い心でご覧になっていただけると助かります。
基本的には
・ジャズプレイヤーとしての活動が目立つ
・セッション的な音楽性が根底にある(=JAZZ的)
ということをポイントにしています。
彼らは、ジャズの文脈からか他アーティストとの共演やミュージシャン同士での交流が盛んです。
そこから、色々な要素が交わり、移り変わりながら独自の流れが作られているように見えます。
人と人が繋がり、大きな流れとしての「打ち込み的な音楽性(トラックメイク、DJ)」がジャズシーンにも流れ込んできています。
結果、打ち込みのような静的な部分と即興性/アクティヴさが同居する音楽が生まれ始めています。
彼らの音楽性は再現することが目的ではなく、それをテーマにしてカッコよくすることが大事な
のだと思っています。ここがELECTRO一派との大きな違いです。
ジャズもテーマ(曲)があって、そこをどれだけクリエイティヴにカッコよく演奏するかが基本的なスタイルです。ジャズのテーマ部分が打ち込み音楽になった、というイメージなのでは、と推測しています。

⑴Marcus Gilmore
一発目に紹介するのは僕の敬愛してやまないMarcus Gilmore。彼の祖父はあのRoy Haynesです。とはいうものの、レジェンド・ドラマーの孫、という枕詞が不要なくらい素晴らしいドラマーです。ジャズシーンではChick CoreaやGonzalo Rubalcabaとの共演などで一気に名を知られた感のある彼ですが、ジャズはもちろんのこと、”Beat Music”もかっこいいんです。
▼Taylor McFerrinとのDUO
BrainfeederアーティストであるTaylor McFerrinがAbleton Liveでトラックを操作しつつ演奏、Marcusがそこにセッション的に参加する、というデジタルとアナログのハイブリッドデュオ。
この音楽性は、クラブでのDJとフロアの関係性に似ているような気がしています。
DJがフロアの空気をみつつ曲を繋いでいく/フロアもDJの作るステージに参加する、というインタラクティヴな関係性のように、Taylorが空気をみつつトラックを形作っていく/MarcusもTaylorの作る世界に参加する、というインタラクティヴな関係がここにはあります。(まぁ実際クラブで演奏しているんですが。笑)
Marcusもループを中心にしつつ、ジャズっぽい揺らぎとクールなフレーズで変化を加えていて、マジカッケー意外の言葉が出ないです。がっちりビートなんだけど、どこか4beatっぽいフロウな感じもあって、それがこの音楽のキモになっています。
Marcusの特徴は「がっちりビートなのにどこかでユルくて有機的な質感がある」ことだと思います。それはまさに”Beat Music” Generationが意識的な人間が生演奏する価値の1つでもあります。
▼Taylorの曲を中心にしたセットリスト
あらかじめ作られたトラックをベースに同期演奏する点では静的なのですが、実際の中身はとても動的な音楽になっています。
これはまさに打ち込みとの共存が自然に行われている良い例かと思います。
BrainfeederがFlying Lotusを中心とするDJカルチャーのレーベルなので、そこから考えると自然な流れではあるのかも。
Marcus自身は、音作りもそんなに普段と変えていないし割とナチュラルに演奏しています。この「ジャズっぽさ」がTaylorの作りたい音楽には欠かせないんでしょう。僕もそう思います。
▼Rafiq Bhatia / Breaking English
インド系アメリカ人ギタリストであるRafiq Bhatiaとの関係性も面白いので触れておきます。
この曲は彼が2018年に出した2ndアルバムのリードトラック。この曲だけMarcusがドラムで参加していますが、うねりまくるグルーヴとスロウでメロウなトラックがイケてます。
Marcusがよく共演しているVijay Iyerを通した繋がりかと思われますが、このトラックにMarcusを当てる感じはとてもBrainfeeder的な感性だと思わざるを得ないです。
それにバッチリいつも通りの演奏で応えるMarcus。全然メカニカルじゃないのが良いですね。笑
▼Rafiq Bhatiaが以前やっていたやつ。今よりもロック寄りですね。
Rafiq Bhatiaはジャズ/エレクトロニクス/ロックを経由したような独自の音楽を作っていて、どのアルバムもかっこいいのでとってもオススメです。アルバム「Breaking English」の他の曲で叩いているIan Changについてももっと言及したいところですが、これも今は一旦お預けです。
▼Vijay Iyer Group
MarcusとVijay Iyerの関係は避けて通れない話題です。Vijay IyerもRafiqと同じくインド系アメリカ人のピアニストで、ジャズシーンの中でもひときわ異彩を放っています。この動画だとかなりフリーな演奏をしていますが、Marcusとやっているレギュラートリオはそれはもうめくるめくリズムの世界。めっちゃ紹介したいのですが、それはMarcus Gilmoreを掘り下げまくる別の記事でやろうと思います。Marcusの持つ「ビートなのにユルい」という”Beat Music”的な感性はVijayとその周辺との共演から得たものが多いんじゃないか、と個人的には思っています。

⑵Justin Brown
お次はジャズシーンが生んだエリート・ビースト、Justin Brown。ジュリアード出身ということで、そもそもの音楽的教養の深さがうかがい知れるところですが、彼の魅力は何と言ってもその叩きっぷりでしょう。確かなテクニックとアツいプレイヤー精神が漢らしくて素敵。
▼盟友Ambrose Akinmusireとのギグのひとコマ。ジャズのアツさがギンギン。
これを見ても感じていただけるかと思うのですが、どソロなのにビートが効いてます。叩きまくる中にも大きなうねりが感じられて、こういうフロウはまさに”Beat Music”にぴったりな予感がします。
▼Thundercatとの関係
彼を”Beat Music” Generationの流れで語るときに外せないのがBrainfeederアーティストのThundercat。先ほどのMarcus GilmoreがTaylorとタッグなら、こっちはThundercatとタッグな感じですね。Thundercatの作るなんとも言えぬ、ドープでエネルギッシュでメロウな新しい音楽にエネルギーを吹き込んでます。
Justinのドラミングスタイルはゴスペルチョップス的ですが、フレーズのメカニカルさよりも「エネルギー溢れちゃってる感」がゴスペルチョッパーのそれに近いと思います。実際、ゴスペルフレーズを連発するのですが、いい意味でのユルさや軽さがあって、ジャズっぽい印象が強いです。
▼Thundercat / Them Changes(ドラムはクレジットを見る感じ打ち込みですね)
ここでポイントなのが、Thundercatの音源は打ち込みが中心ということです。
▼Them Changesのライブ版
これを聴き比べると、ライブ版では手数が多いしJustinも割と叩くし、音源を再現する気はほぼないんだろうな、ということが伺えます。実際のアウトプットは一体なんなのか?と考えるとなんとも言葉にしづらい。「バンドミュージック」と言えばそうなのですが、バンド音楽なのにセッション的なのです。
こういった「本来作り込まれたものをセッション的に演奏する」質感が、僕が”Beat Music”と呼んでいる音楽には共通しているのではないかと感じています。
▼Mmmhmmm (with Austin Peralta, Tim Lefebvre)
これはBrainfeederのドンであるFlying Lotusの名曲をバンドで演奏しているテイクです。トラックメイカーの曲だけどバンドでやっちまおうぜ!カッケーじゃん!という感じがプンプンします。実際超かっこいい。
▼Mmmhmmm / Flying Lotus
原曲です。はぁ〜最高。MVもドープでかっけえです。
▼Justin Brown’s NYEUSI(10:00〜 Evan MarienのソロからのMmmhmmm)
これはJustinがリーダーを務めるNYEUSIというプロジェクトのライブ映像。この頃は今とメンバーが少し違いますが、基本はこんな感じです。スペーシーなサウンドとその中に蠢くビートのコントラストがドープ。シンセが非常にスタティックで静的なのに対して、他の面々はグングン動き回って動的です。ループとアドリブという構図がとても打ち込み的だし、それをバンドでやる感じがまさしく”Beat Music” Generationな発想です。
Justinの参加しているプロジェクトはどれも生バンドで編成もジャズ的ですが、ジャズじゃない何かな気がします。アンビエント〜エレクトロ〜リミックス〜ヒップホップ〜ネオソウル〜ジャズ〜ゴスペルチョップスというこれまでとは異なる文脈のフュージョン音楽と考えられそうです。根底にある思想がジャズ的であるのは確かだと思います。
Justin Brownというドラマーそのものについてはまた「Justin Brown研究」みたいな記事でより深く触れていこうと思います。

補足)Evan Marien
ここでベーシストEvan Marienについて少し触れておきます。
NYEUSIでも弾いていた彼ですが、”Beat Music” Generationを語る上でとても重要な存在です。GOSPEL CHOPSの文脈で紹介するDana Hawkinsとユニットを組んでいたり、Justin Brownと自分の曲をやっていたりします。エレクトロへの造形が深く、ベーシストとしても素晴らしいのですが、サウンドメイクやトラックメイクの側面でも注目すべきミュージシャンです。
▼Evan Marien / Decisions

めっちゃかっこいい、やばい


⑶Arthur Hnatek
彼はMark GuilianaやRichard Spavenに近い質感なので、ELECTROの文脈で紹介するかどうか迷いますが、ジャズ出発なプレイヤーということでここで紹介します。まずは動画を。
▼ Tigran Hamasyan / Out of the Grid
この動画を見ても、かなり整理されていて美しいドラムです。再現性高めな感じですが、ドラム自体は自然で有機的に演奏しています。頑張って連打したりドラムンベース的なマッチョイズムはないし、Richardほど冷たい感じもしません。このどこか暖かくいい意味でのユルさがあるのがジャズ出発な感じがします。
ちなみに、彼は後々紹介するNate Woodの後任としてTigran Hamasyanのバンドに参加しています。ジャズシーンの極北ドラマー繋がりって感じが胸アツです。

本人に「Tigranの曲はどうやって覚えているの?」と聞いたら、「繰り返し繰り返し聴くんだよ」と言われて、「あぁ、そうかぁ、、、」と思った思い出があります。気合いですね。

▼エレクトロ〜アンビエントな曲、Nash
めっちゃくちゃエレクトロですよね。JojoやMark、Richardもやってそう。でも、どこかでアドリブっぽいというか、ジャズっぽい軽やかさがあります。
▼自身のプロジェクト、SWIMSでは自分でトラックを操りながらドラムを演奏する
TaylorとMarcusがやっていたことを一人でやっているような感じです。こういう質感、かっこいいですよね。彼が演奏しているドラムから不思議な音がしているかと思いますが、この機材については後々紹介します。
▼ノイズボックスを操るTesla Manaとの演奏
TaylorとMarcusのやっていることをもっとストイックにしたような印象を受けます。
向こうがポップ/ジャズ/ソウル的な質感が強いのに対して、こちらはエレクトロ/アンビエント的な質感です。Arthurも機械的に、スクエアに叩いています。
▼Arthur Hnatekが参加しているFranky Rousseauのビッグバンド
ジャズ出発なんだぜ、ということの証左としてこちらも紹介します。若かりしArthurが叩いているビッグバンドの動画。
Justin Brownの時にも出てきたAustin Peraltaがフィーチャーされていたりします。Austinは本当に素晴らしいのですが若くして亡くなってしまいました、、、残念です。
この曲も、単純なロックフィールの曲とも言い切れない、「なんとも言えないジャンル感」がありますね。ジャズビッグバンドだけど、目指している音楽性は”Beat Music” Generationに通づる何かがあります。

補足)Sensory Percussion

後で紹介します、といった不思議なドラムの機材、Sensory Percussionについて紹介します。
これはジャズ系のドラマーを中心に広がり、ドラマーの間で浸透しつつある高性能ドラムトリガーです。ドラムにセンサーを取り付け、その振動を感知してシステムから音を出すという仕組みなのですが、このセンサーがウルトラ高性能なんです。強さや叩く位置を検出できるので、1つのドラムセットにたくさんのスイッチをアサインできます。つまり、「ドラムの演奏性そのままの高性能サンプラー」という代物。おかげで、ドラマーが打ち込み的表現に同期しやすくなりました。
これは”Beat Music” Generationの志向する表現にぴったりな機材です。ドラムでDJができる、となったら色々なアイデアが湧いてきます。
Marcus Gilmoreも動画で「ドラムでDJみたいなができるようになった。」って言ってますね。そして、MarcusやArthurは現場でガンガン使っている(一番最初のTaylorとのデュオでも使っています)。これからもっと広まって行きそうです。
動画に登場するCraig Weinribも”Beat Music”とは別のテーマで紹介したいと思います。

 


⑷Nate Wood
「ジャズもプログレもなんでもござれのバカテクドラマーかと思っていたら、とんでもない変態に進化していた」というのがNateに対する感想です。笑
Wayne Krantzとやっていたり、プログレっぽい文脈があるプレイヤーではあったのですが、ジャズシーンでもそのヤバさは発揮されまくりです。昔のTigran Hamasyanのバンドで叩いていたり、Ben WendelらがメンバーのKneebodyのドンだったり、結構前から独自のジャズ的質感を伴った変わった音楽(=”Beat Music”?)を作っていたドラマーです。
▼Tigran HamasyanのShadow Theaterが出たくらいのライブ
アルメニア音楽を基調としたウルトラ変拍子/ポリリズム音楽です。ジャズっぽい編成で、ジャズのフォーマットを基調に演奏されていますが、これがジャズかと言われると違う気もしますね。
Tigranがメタル好きらしく、プログレメタルっぽいところもあり、”Beat Music” Generationとも違った新しい流れすら感じます。
Nateは圧倒的な迷いのなさとテクニックで縦横無尽にこの楽曲群を叩きこなしています。31:12あたりのTigranの苦しそうな顔がいいですね。
▼Kneebody
独自のシグナル(特定のフレーズで指示が出される)を用いて曲を展開させるというド変態ジャムバンド。めくるめくインタープレイを生み出すのはNateとその仲間たちです。なんなんだこの変態たち。
このバンドの変態っぷりはYasei Collectiveの中西さんの記事でめちゃくちゃわかりやすく解説されているのでチェックしてみてください。
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/8175
▼ベースを弾く
ベースを持っている。そう、彼は変態バカテクドラマーなだけではなく、ベースも弾ける変態なのです。
▼ベースとドラムを一緒に演奏する
さて、何か様子がおかしくなってきました。彼は同時に弾けるのだ。ベース片手にドラムを演奏するというちょっとシュールな見た目ですが、ここまでベースとドラムをシンクロさせることができれば何か新しい世界が見えそうな気がします。
▼全てを同時に演奏する
完全変態。
彼のソロプロジェクトfOURに至ってはDeantoni Parksも真っ青な全楽器同時演奏です。というか誰が彼にこんなことをさせたんだ。すごすぎるだろ。変態を通り越した。
真面目に分析してみると、Deantoni Parksがうねり、エラー、シンクロ感など身体性を重視した表現なのに対して、Nateはもっと完璧主義的というか、理性的に1つの曲を作り上げるための設計図がしっかり作られている感じがします。Deantoniがやりたいことはいかに電子音楽の「エラーを再現できるか」であり、Nateのやりたいことは「一人でどこまで完結させられるか」。そもそもの根本的な目標が違うような気もします。再現することが目標というより、一人でセッションすることが目標な感じといえば良いのでしょうか。
その目指す世界の違いは、ジャズ起点かどうかの違いがあるような気もします。なお、彼は正真正銘の異常な変態です。