The Drumming of “Beat Music” Generation 〜カテゴリ別考察:ELECTRO編〜

モダン・ドラミング以降の新世代ドラミングを考察、研究する試みエッセイです。
これは「概要記事」に対する詳細記事になります。


*ELECTRO編で紹介するドラマーたち
Mark Guiliana
Jojo Mayer
Richard Spaven
Deantoni Parks
など(追加するかも)

※お断り
この文章は全て私の主観的で独断的な判断、考察、研究をもとに書かれております。そのため、事実と異なる部分や間違った情報が存在しうることを予めお伝えしておきます。ドラムという楽器の1つの考え方として軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。「ここはこういう考え方もできると思う」「ここは完全に間違ってるよ」と言ったご意見はソースと共に教えて頂けると大変助かります!

 


⑴Mark Guiliana
彼のリーダーバンド”Beat Music”での活動など、今回の話題に欠かすことの出来ないドラマーです。(今回のテーマである”Beat Music”という単語は彼のバンド名が由来。)
▼Mark Guiliana’s Beat Musicのライブ映像。バンドイン1音目からクソかっこいいですね
優れたテクニックやサウンド・メイク、クリエイティヴなメソッドなど、独創的で魅力的なドラマーですが、今回はドラミングから見える音楽性に着目していきたいと思います。
彼は、ドラマーではない人が打ち込んだようなある種の「ドラマー的でないドラム」を人力で再現してしまうエレクトロな感性を持つドラマーです。
私が彼のドラミングを一言で言うならば「アルペジエーター系」だと感じています。
アルペジエーターとはエフェクターの1つで、プログラムに沿って音をアルペジオのように動かす機能を持っています。

参考:
https://sleepfreaks-dtm.com/dtm_word/1-1a/arpeggiator/
https://www.g200kg.com/jp/docs/dic/arpeggiator.html

▼音はこんな感じです。
彼の演奏を聴いていると、まるでドラムにこのアルペジエーターをかけたかのように聴こえる瞬間があります。たとえば次の動画の0:22〜0:40あたりのところとか。
▼Now vs Nowにいた頃のDrum Solo。これで僕はファンになりました。
高速でドラムのフレーズをプログラミングしているというか、ハット、スネア、バスドラ、シンバルを行ったり来たり留まったり、、、。
少なくとも、これまでモダン・ドラミングで一般的だった手順足順とは異なるロジックで演奏している気がします。ドラマーでない人が「音がかっこいいという理由だけで、人間にはギリギリ出来ないようなフレーズを作ってしまう」ということはよく耳にしますが、めちゃくちゃバスドラだけ連打したり(しかも結構無理矢理やってたりする)、突然ブレイクする感じは「まさに」、という感じ。
▼この動画(0:51~)ではMarkの無理やりバスドラ同音連打が聴けます。
▼Wayne Krantzとやっている若い頃!すでにMarkらしさがありますね。
彼はJojo Mayerが表現の1つとして提案した「打ち込み人力再現」を新たなステップに進めた一人だと思います。彼は人間が生演奏で表現できる範囲を広げ、”Beat Music” Generationを形成することに多大な影響をもたらしていると感じています。
最近はJazz Quartetでの活動など、もっとジャズよりな活動もしていますが、何をやってもめちゃくちゃかっこいいドラマーです。
彼の演奏分析やメソッドの紹介はまた「Mark Guiliana研究記事」で書こうと思います。

 


⑵Jojo Mayer
彼はモダン・ドラミングと今回のテーマである”Beat Music”をつなぐ立役者のような存在です。
演奏を知らぬものはほぼいないのでは?というくらい有名なドラマーですが、彼も常に進化を続けています。
▼彼のバンド”NERVE”の割と新しめの動画。一見の価値ありです。長いけど。
彼は「ドラムンベース」と呼ばれるリズムを、超絶テクニックで人力再現するスタイルで一躍有名になりました。特に次の動画なんかはもう伝説級にヤバイですね。本当にパソコンにしか出来ないんじゃないか、という演奏です。
▼昔のNERVE。すごすぎる。
ドラムンベースとは、いわゆるサンプリングで取り込んだオーディオデータを倍速にしたり速さを変えることで作られるリズム・スタイルです。トラックメイカーのSquarepusherはこのスタイルの大御所で、ドラムが細かくチョップされていて、かつ速い。
この音像をJojoは人力で再現してしまったわけです。
特に特筆すべきなのはスネアドラムの表現です。片手一度のストロークで何連打もしているし、そのアクセントや音質のコントロールが異次元レベルで高い。本当にSquarepusherのトラックみたいですよね。この技術がドラマーの間で話題になるのは自明の理。笑
彼以降多くのドラマーがこの手になんとか近づきたいと技術レベルを上げていくことにより、ドラム表現が新たなステップに進んだと思っています。Tony Williamsの「5連打ライドレガート」に近しい何かを感じます。モーラーモーション、プッシュプル、と言ったテクニックが一般的になったのも彼の影響が大きいのでは、、、?
とにもかくにも、彼が”Beat Music” Generationに繋がる道を作ったドラマーの一人であることは疑いようがないと思います。

補足:また、彼は何かのビデオインタヴューで「自分の右足をサンプリングパッドみたいに考えてみるんだ。一打踏んだら左手はこのフレーズ、二打踏んだら今度はこっちのフレーズ、みたいにね。そうすると本来の打ち込みのロジックと同じような発想でドラムを演奏することができるんだ。」と言っていて、面白い発想だと思った記憶があります。(超意訳&記憶が曖昧なのでこれに近しい話を聞いたことがある方、ぜひ教えてください)


⑶Richard Spaven
次に紹介するのは「リズムマシーン完全再現」とでも言うような、完全にコントロールされた演奏が魅力のRichard Spaven。
まずは動画を。
▼派手ではないですが、確かな「ヤバさ」を感じる動画。
いかがでしょうか。とにかくスムーズで、滑らかで、迷いがないですよね。ドラムはここまで美しくなれるのか、、、と驚かされます。
リズムマシーンで作り込んだようなパターンを、リズム、音の長さ、音色、ベロシティ等含めて、そのまままるっとドラムで生演奏してしまう「完璧さ」が特徴です。キレの良いタッチと極めて高いコントロール能力がなせる職人技です。
MarkやJojoが人力再現の中に「ちょっと無理をしてでも頑張る人間的なアツさ」を内包しているのに対し、彼は極めてクールで冷静。無理をしている様子は全く感じられず、本当に全部が余裕な感じ。なおかつ、機械にはない色気のある演奏をしています。「人間のクールな色気」を添えることの出来る彼は、ある意味で最も打ち込みへの理解とリスペクトを持ったドラマーなのかもしれません。
José Jamesのバックで演奏しているこのトラックなんて、本当に人間なのか、と言うレベルの均質さとブロークン・ビーツっぷり。
▼José James / U R the 1
別項目で紹介するChris Daveやその周辺のドラマーもこうしたブロークンなビートを叩きますが、彼らとの違いはその「均質さ」。Chrisたちが割と感覚的なズレ感で演奏しているのに対して、Richardは手足をそれぞれ異なるグリッドに乗せて鳴らしているような、ロジカルで理性的なズレ感で演奏しています。
彼は、”Beat Music” Generation的表現の完成度を高める「職人」的なポジションにいる存在だと思います。
彼の演奏分析やメソッドの紹介もそのうち書こうと思います。

 


⑷Deantoni Parks
ここで少し変わり種を。彼は独自の路線でエレクトロなドラミングを解釈しています。まずは映像を見てもらえれば、その特異さと面白さが伝わると思います。
▼10分間でどこまでトラックメイキング出来るか?企画でひたすらドラムを叩くやばい人。
そう、右手でMIDIキーボードを演奏しながら左手でドラムを叩く、という超変態スタイル。右手側のMIDIキーボードには、DAW上でスライスした音源を割り当てて、サンプラーとして使っています。動画内のDAW(Logic)画面をよく見てみると、BjorkとかAphex Twinの曲を何か別の音と混ぜてますね。
彼は「レコードの針とび」を感じさせるような表現で新たな音楽を生み出しています。レコードに傷がついていて、針がそこに引っかかって同じ部分を何度も再生してしまう、、、いきなり曲が変なところに飛んでしまった、、、あるいはDJがディスクをスクラッチして同じところ何度もループする、、、そんなアナログレコード〜アナログDJ文化が根底にあるような気がします。そもそも「針とび」という現象自体、技術が発展していないと起こり得ないものなので、彼のやっていることはとても現代的だと思います。
彼はTechnoselfというソロプロジェクトをやっていて、基本ずっとこんな感じ。笑
▼Technoselfの名曲、”Bombay”
▼彼の動画で一番好きなやつ
最後の動画は”Beat Music” Generationを語る上で外せないTaylor McFerrinとセッション的に演奏しているもの(Taylorは最後の方にリフを弾いているだけだけど)。これをみてわかるように、パワーがヤバイ。笑っちゃいますよね。最高です。ちなみに自分は心の底から彼のファンです。
実際に電子楽器を使うという点ではここで紹介するドラマーたちとは少し経路が違いますが、あくまで1つの「生楽器」としてMIDIキーボードを使っているのが面白いです。電子なんだけれども非常にフィジカルな表現というか。何よりもドラムそのものが圧倒的にうまい。ドラマーとしてとても優れた能力を持っているからこそ出来る演奏だと思います。
まさに”Beat Music”としか言いようのない新たな音楽を生み出している”Beat Music” Genartionが誇る奇才です。

彼に触発されてベーシストの高橋将さんと一緒にAVALAJAHという人力エレクトロ・ユニットをはじめました。そのうち紹介させてください。