raise

『raise』について

「六道」をコンセプトに据えた『raise: deva』〜『raise: naraka』から成る6枚のアルバムをリリースしました。
六道とは、仏教において生命が輪廻転生を行う土台となる6つの世界のことです。天道、人間道、阿修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道があり、それぞれをテーマにしたアルバムを6枚制作しました。

制作経緯

以前から「私たちは常に小さな輪廻転生の中にいる」という意識があり、それに最も近い概念である「六道」をコンセプトに設定しました。
私たちは物質的にも精神的にも毎日同じではなく変化し続けています。
その変化を生まれ変わりと捉えることは、現在や未来を肯定する手段の1つになるかもしれません。
アルバムのタイトル『raise』には、「高まる」と「来世」の2つの意味を込めています。

deva(天道)

『異邦人』や『かもめのジョナサン』といった特定の作品やモチーフにインスピレーションを受けて制作したアルバムです。小説や音楽、絵画、映画などに触れると、新たな知見を得るだけでなく、漠然と考えていたことが誰かの作品の中で具現化されていることに安心します。
1. いつでも海にいけた, partⅠ
2. いつでも海にいけた, partⅡ
モチーフはアルベール・カミュの『異邦人』です。アルジェリアのうだるような暑さ、主人公ムルソーの内面的な動き、作中のタイムラインを音楽で解釈しました。曲中を通して変奏しながら流れる主題が、状況が変化しながらも「自分自身にとっての本当」を守ろうとするムルソーの生き方を表しています。
3. the master fish
リチャード・バックの『かもめのジョナサン』の中でかもめたちに食事と認識されているだけの魚に着目しました。主人公のかもめのジョナサンは自分で捕まえた魚を食すことなく、かもめの群れに放り投げます。ジョナサンから適当な扱いを受けた魚がその後どうなったのかは描かれていませんが、もしも奇跡的に海へ戻れたら……と想像しました。初めて海以外の世界を知った魚は何を思い、仲間たちに何を話したのでしょうか。そしてそれを聞いた「かもめの食事」たちはどう思ったのでしょうか。
4. the dancer, partⅠ:mimesis
5. the dancer, partⅡ:migraine aura
6. the dancer, partⅢ:we meet again
この楽曲は複数のモチーフが重なり合っています。諏訪敦展「眼窩裏の火事」の鑑賞と、岩渕貞太『ALIEN MIRROR BALLISM』への参加が大きなきっかけとなり、ダンサーをテーマに曲を作ることにしました。「眼窩裏の火事」では舞踏家の大野一雄さんと川口隆夫さん、『ALIEN MIRROR BALLISM』では6名のダンサーを見たことで、「今ここ」で見ないと失ってしまう身体性への感動があることを改めて感じました。記憶を辿った時の「あの身体はもうここにはない」という切なさから、それを繋ぎとめておこうと曲を作り始めました。
また、別のモチーフとして愛用していたフライパンを買い替えたこともこの楽曲に反映しています。「失われたもの/失われていくもの」について考えている最中だったので、捨てられてしまう運命にあるフライパンのことを忘れないために、その音を録音しました。楽曲を通して鳴っているコーンという金属音はフライパンを演奏したものです。
partⅢでは、ドラムソロで失われたものへ捧げる踊りを表現しています。フリーテンポのドラムソロは呼吸や重心の動きなどが踊り的だと感じており、演奏しているとダンサーとなって踊っているような気持ちになります。
7. in the garden
私の幼少期の原体験に、朝の庭の景色があります。家族で引っ越した翌朝、燦燦と降り注ぐ朝日に照らされた庭と、敷地奥に広がる菜の花畑が輝いていたことを鮮烈に記憶しています。まだ家は片付いておらず、テーブルもなかったので床でシリアルを食べました。飼っていた猫が傍にいて、一緒に外を眺めていました。あの朝からだいぶ月日が経ち、菜の花畑がなくなったり、飼っていたネコが死んでしまったりと状況は変化してしまいましたが、あの光景を私はずっと思い出し続けると思います。
8. visions, partⅠ:island
9. visions, partⅡ:time
10. visions, partⅢ:projection
ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』と『ダロウェイ夫人』が制作のきっかけになりました。ウルフの作品では「意識の流れ」と呼ばれる手法が取り入れられていて、本当に登場人物と一体化しているような没入感を得られます。複数の旋律を同時に鳴らす、グラデーションのような変化を与える、突如現れる急な展開などは、ウルフを読んでいる時の感情の動きや独特な時間感覚を表現しています。
11. 65 years
以前、友人たちと「運命の人と出会う確率」というネット診断をやってみたことがあります。これは恋愛的な意味合いだけでなく、仕事や友情など人間関係全般に当てはまるものとのことでした。友人たちの診断結果は1/1000前後の確率が多かったのに比べ、私は1/24538でした。この数字だと毎日新しい人に出会ったとしても、運命の人に出会うまでは65年以上は掛かる計算です。信憑性には欠ける診断ではありますが、今自分の周りにいてくれている人たちに対して改めて感謝を表したくなり、この曲を作りました。拍子やコード進行を24538という数字に変換して取り入れています。
Produce, Mix, Mastering: kent watari
Cover Photo: comuramai

manusya(人間道)

人それぞれの違いを意識し制作しました。人との関わりにおいて違いは良くも悪くも作用します。誰しも全く同じ人生を歩めないからこそ、私たちは違いを受け止めながら話し合い、わかりあうための努力を怠らない必要があると感じます。
1. orb (feat. 児玉真吏奈)
featアーティストに児玉真吏奈さんを迎えた楽曲です。児玉さんが参加しているSawa Angstromと自分が参加している東京塩麹で対バンした際、その洗練された音楽性とサウンドにノックアウトされ、何らかの形でご一緒できないかとずっと考えており、今回オファーをさせて頂きました。丁寧な歌詞と囁くような歌が魅力的な一曲になりました。
2. no problem
ギターとメロディメイクにIchika Nitoさんを迎えた楽曲です。世界中に素晴らしい評価を受ける彼ですが、技術だけでなく人柄もどっしりとしていてとても頼りになる存在です。この曲のデモを渡してすぐにOKテイクが返ってきた時、まさにタイトルである「no problem」という言葉が浮かび、その気持ちのままに制作を進めました。
3. reflect you
人との関わりについて考える時、よく鏡や反射について考えます。私が私だと思っている姿は基本的に鏡に写った反転した姿で、そのことが自己認識の難しさや矛盾を感じさせます。また、鏡に写っているのは現実の姿の反映なので、鏡の中の私を変えるにはまず私自身を変えなければいけません。鏡はそういった思索のきっかけを与えてくれます。
4. 蝶々 (feat. aqubi)
普段から仲良くしているヴォーカルとピアノのデュオ、aqubiのお二人をfeatに迎えた曲です。aqubiがあまりやらないであろう曲を聴いてみたくて、歌とピアノに軸足を置きつつ、太いビートとどこか童謡的な響きのメロディをあてました。中盤のピアノソロではryo sugimotoさんのエレクトロニクス捌きが流石で、抑制と心地良さのバランスが美しいです。
5. throw gently
私は内向的な性格なので、つい自分の殻に閉じこもりがちになりますが、窓の外の景色を見ると、外の世界には美しいものがたくさんあることに気付きます。独りで生きていくことはできないのだから、怖がらず一歩外に踏み出そうという気持ちを歌っています。
6. lone wolf
森の中で孤独に生きる狼を主人公にしました。その狼は独りでいることに不満も後悔もありませんが、同時に森には自分以外の狼がいるということを心の支えにもしていました。毎晩眠る前に大きな声で吠えて、ここにいるよと伝えるその姿について歌っています。
7. always we are
機械式時計は、大小様々なサイズの歯車が精密に噛み合うことで機能しています。その様子がどことなく人間社会に通ずる部分があるように思えます。色々な人がいて、生き方も様々ですが、それらが噛み合うことで現在を形作っているはずです。そして、スムーズに歯車を回すためには歯車の噛み合わせを見直し、メンテナンスをしていく必要があります。今の私たちはちょうどその見直しとメンテナンスの最中を生きているように感じます。
8. flowers
「寄り添い」をテーマに制作した楽曲です。現実は非常に複雑かつ不条理で、とてもコントロールできるものではありません。しかし、この現実を生き抜くために優しく寄り添い話を聞くことは決して無駄ではないと思いたいのです。
9. ひとりでにひかる
レイ・ブラッドベリの『華氏451度』にインスピレーションを受けて制作しました。本が禁じられた世界で本を求めて行動する主人公モンターグは、オルタナティブな姿勢そのものです。70年前のSF作品ですが、現代にも通ずる問題意識を含んでいます。モンターグと私の問題意識がオーバーラップする感覚を音楽で描きたいと思いました。
10. divide
アルバムのインターリュードとして制作しました。ねじれるテンポとざらついた音色で心の複雑さを表現しています。
11. 笑う模様 (feat. 君島大空)
かねてよりファンだった君島大空さんにオファーして制作した楽曲です。君島さんの繊細な歌と詞を最大限活かしたいと思い、隙間の多いトラックをベースにメロディを考えました。声の近さや歌声も相まってとても美しく切ない曲に仕上がりました。
Vocal, Lyrics: 児玉真吏奈(tr.1), yuukitakami(tr.4), 君島大空(tr.11)
Guitar, Co-Produce: Ichika Nito(tr.2)
Piano, Electronics: ryo sugimoto(tr.4)
Produce, Vocal, Lyrics, Mix, Mastering: kent watari
Cover Photo: comuramai

asura(阿修羅道)

架空のサイバーパンクの劇伴音楽を作りました。人間の尊厳を巡る闘いのストーリーを音楽から描く試みに取り組んでいます。物語の内容は説明せず、どのようなシーンを想定した楽曲かについて書くことで、物語自体の想像や解釈は聴き手に委ねられるようにしたいと思います。
1. why aren’t you here プロローグ、トラウマ、記憶。
2. 1538℃ オープニング、戦闘。
3. you can’t say I’m boring 日常、生活、仕事。
4. researcher 調査、推理、思考。
5. a lot of blinks 発見、不穏、潜入。
6. bruxism 混乱、危険、異常。
7. i stand alone 敗北、孤独、後悔。
8. funeral 過去、熟考、死。
9. we are alive 調査、未知。
10. awakening 閃き、集中。
11. no message 憧れ、運命、独白。
12. eye contact 任務、戦闘。
13. invisible 虚無、絶望、停止。
14. please don’t sleep 記憶、恐怖。
15. red light, green ray 真実、優しさ、夢。
16. parade 戦闘、意志、緊張。
17. through the monitor 愛、別れ、郷愁。
18. 水平線のない星 エンディング。
Produce, Mix, Mastering: kent watari
Cover Photo: comuramai

tiryagyoni(畜生道)

ダンスやインダストリアル、アンビエントなどエレクトロニックミュージックに軸足を置いた作品です。畜生道は剥き出しの欲望が渦巻く世界です。その様子は現実だと祭りやクラブといった「踊りの場」で少し垣間見れるかもしれません。単に「踊り」といってもその在り方は様々で、本能的な身体の揺れも、研ぎ澄まされた動きの連なりも踊りであると感じます。そういった多様な「踊り」を内包できる音楽を作ることで畜生道を表現できるのではないかと考えました。
1. the beast aimed at the sky
オープニングとして制作した曲です。かつて水の中にいた生き物は空を飛びたいと願い翼を手にしました。その願いは地球に多くの新たな命とストーリーをもたらしたはずです。
2. obscure corner (feat. さのみきひと)
パーカッションにさのみきひとさんを迎え、打ち込みのビートに人間的なグルーヴを与えてもらいました。スティールパンの異国情緒溢れる響きがこの手のダンスミュージックには新鮮で、まるでまだ名前のついていない音楽のようだと思いました。
3. fracture
複雑なリズムと攻撃的なサウンドで「時間の骨折」を表現しています。
4. cell division
私たちは生きている間「ずっと頑張り続ける」ことはできません。クラブのフロアと同じように、踊りたい時に踊り、疲れたら休んでもいいのではないでしょうか。生命が誕生してから何億年もの間、私たちはずっと「踊り続けられない私たち」としてここまで生きてきたのです。
5. raga from mantle (feat. さのみきひと)
大々的にさのみきひとさんの演奏をフィーチャーした楽曲です。ドローンとメタルパーカッションのソロがインド音楽の構造を彷彿とさせますが、その演奏ロジックやサウンドは全く異なるため「マントルのラーガ」として解釈することにしました。
6. it was surreal
ヒプノティックなテクノを聴いていると、頭がぼんやりしてきたりまるで夢の中にいるようだと感じることがあります。その感覚をそのままストレートなテクノに落とし込みました
7. take the chance
アルバムの中でも特に明るく踊れる曲です。畜生道は六道の中でも特殊で、そこから上の世界に行くことも、輪廻から脱することもできない世界とされています。そんな中でもチャンスを掴みたいと願うポジティブな楽曲です。
8. air bubbles
フレーズをストリングスそれぞれに分解することで、海の中で気泡がぶくぶくと舞う様子をイメージしました。一つひとつはささやかでも、気泡は生き物が呼吸をしている証です。
9. meteor
かつて地球に巨大な隕石が降ったように、アルバムにも隕石が降ってもいいと思い、スピーディで破壊的なインターリュードを作りました。
10. exoskelton
昆虫や甲殻類といった外骨格を持つ生き物をイメージしたビートのランダム生成を行いました。
11. seas beneath
海の底で暮らす生き物の中には、海底の広さと暗さゆえ孤独な生き物もいるのではないかと想像します。孤独をイメージした楽曲なので、荒涼とした雰囲気のサウンドと切ないメロディを全面に押し出しています。
12. in smoke
繰り返しの中で徐々に変化するベースや展開が、煙の向こうが見え隠れするイメージとリンクします。トラディショナルなテクノを志向した楽曲ですが、自分で採集したフィールドレコーディングの一部をループとして使っていたりと、シンプルなテクノにはない要素も取り入れています。
13. space has sound
風邪をこじらせて、耳の閉塞感に悩まされたことがあります。耳の詰まりが良くなると、この世界は常にいろいろな音が鳴っていることに改めて気付きました。窓の外から聞こえる車の音や子供たちの声。空調機の動く音や水道の流れる音。こういった「聴こえているのに聴こえていない」感覚を、微細な変化が起こり続ける楽曲で表現しようと試みました。全く同じ音を再生できる打ち込みだからこそ、微細な変化を与える意味が強調できると考え、作業はPCのみで完結させています。
14. the sand is moving
蟻の足音を聞いてみたいと思い、どんな音なのか想像しながら楽曲を覆うキラキラしたノイズを作りました。蟻の足音を高性能マイクで集音したような印象にしたかったので、ASMR的な音響を採用しています。
Percussion: Mikihito Sano(tr.2, tr.5)
Produce, Mix, Mastering: kent watari
Cover Photo: comuramai

preta(餓鬼道)

私の音楽の原点である生演奏、ビート、ドラムの3つに焦点を当てた作品です。餓鬼道では手にした食べ物が火になって消えるとされていますが、その世界において「実はその火は幻影かもしれない」と根本を疑う冷静さが重要だと思います。焦りを感じる時ほど原点に立ち帰る必要があるという自身の考えが、餓鬼道の世界とリンクしています。和久井沙良さんに鍵盤演奏を依頼し、生演奏の持つ魅力やエネルギーを高めてもらいました。
1. hysterisis (feat. Sara Wakui)
ヒステリシスとは、簡単にいえば「伸びきったバネが前とは異なる弾性を持つ状態」のことです。そうした過去(記憶)が現在に影響している状態は人の心にも起こっていることだと感じます。
2. offering (feat. Sara Wakui)
供養を意味する英単語をタイトルにしました。死んでいったものたちが無事供養され望んだ世界に行けることを願っています。
3. hallucination (feat. Sara Wakui)
飢えや焦りによって幻覚をみるような感覚は私たちも共感できるものではないでしょうか。そうしたイメージを生演奏由来の揺らぎや、複雑に絡む電子音によって表現しています。
4. pareidolia (feat. Sara Wakui)
タイトルは岩や壁のシミが顔に見えるというような現象のことです。私たちはモチーフに意味を見つけようとしがちです。そこには本能的な仕組みがあるように思います。降りかかる理不尽や苦しみにも、無理やり意味を見出して納得しようとする行為と似ているようにも感じます。
5. starvation (feat. Sara Wakui)
「飢え」は餓鬼道を包括する概念です。このアルバムを作ることを決めた時に最初に着手した曲だったので、方向性を定める意味でもこのタイトルを選びました。
6. will-o’-wisp (feat. Sara Wakui)
will-o’-wispとは「青白い光を放ち浮遊する球体」で、いわゆる人魂のようなものです。人々を惑わす火の玉になってしまわぬよう、後悔のない選択をしていこうと思います。
7. somnolence (feat. Sara Wakui)
タイトルは傾眠や眠気を意味します。餓鬼道は今にも意識を失いそうな状態、正気を失う手前の限界地点です。これは現実にもあり得る状況で、そんな時こそ私は冷静でいたいと思っています。
8. next apple (feat. Sara Wakui)
手にしたものが燃え尽きるという挫折を何度も乗り越え、新たな林檎を探しにいくことがこの世界に変革を起こす一歩になると信じています。
9. gestalzerfall, part1
10. gestalzerfall, part2
11. gestalzerfall, part3
右手でサンプラーを演奏し、残りの手足でドラムを演奏するというスタイルで録音した楽曲です。規則的な繰り返しと人間的な揺らぎ、そして電子音と生音のハイブリッドという要素は私が音楽を始めた頃から好きだったもので、それらを一人で表現したいと考えた先に、この独特で歪な音楽が生まれました。揺れてしまうテンポやリズムも含めての表現であるため、音作り以外は特にミックスダウンでも修正せず、タイミング調整などは行っていません。
12. ash
作り溜めていたビートをマッシュアップしたセルフリミックスのような楽曲です。ビートが鳴りはじめた次の瞬間にはもう次のシーンへの移行がはじまっているという展開は、まるで火や幻覚を見ているかのようです。
Piano, Synth: Sara Wakui(tr.1-tr.8)
Drums Rec: tera(tr.1-tr.8, tr.9-tr.11)
Produce, Drums, Sampler, Mix, Mastering: kent watari
Cover Photo: comuramai

naraka(地獄道)

自身が感じる怒りや無力感がベースとなった作品です。現実はいつも残酷ですが、それでも希望を掴み前に進んでいこうという想いを込めています。今、傷付き苦しんでいる人たちに向けたメッセージであると同時に、自分を奮い立たせるための曲たちでもあります。
1. whale fall
タイトルは、鯨の死体を住みかにして形成された鯨骨生物群集のことです。この言葉を知った時、死んでも新たな命を育める希望と、死ぬことが新たな生命に求められているという絶望を感じました。もし誰かが絶望の淵にいるのであれば、私はその人のかけがえのなさを伝えたい、という想いでこの曲を制作しました。AIに様々な声で詩を読み上げてもらい、それを録音したものを使用しています。
2. hibikuyo
まず最初に、フックにあたる部分のお経的な響きのリフを思い付きました。簡単な言語の置き換えロジックを作り、お経的な響きを歌でも再現しようと試みました。「声を上げよう。その声はきっと響くよ」という内容を歌っています。
3. uncharted sun
権力について、大木をモチーフに描いた楽曲です。陽をたっぷりと浴びるために木は自然と巨大化していきますが、巨大になればなるほど周りの木々に影を落とし、サイズの差を広めてもいきます。誰かの犠牲の上で大きくなっていくことについて、私たちは自覚的である必要があると感じます。
4. watch your scar
「傷ついても光ることができる」というメッセージを込めた曲です。この地獄のような現実で、あなたが傷付いたことは「そんなこと」と自分自身に言う必要も、ましてや他人に言われる必要も決してないのです。
5. violet
ヴァイオレットというキーワードにはいくつかのイメージがオーバーラップしています。例えば、赤や青、紫のどれでもない繊細なカラーバランス、ドラァグクイーンのヴァイオレット・チャチキさんや『ポケットモンスター バイオレット』などです。
6. flatten out
何か大きな脅威に晒された時、私たちにできることはまずその脅威を止めることだと考えます。新たな脅威を作り出すことでも、別の場所に逃げる準備をすることでもなく、それを止めるのです。地獄の王である閻魔大王を脅威の元凶と考えるのであれば、私たちはまず閻魔を止め、閻魔を変えなければなりません。閻魔は現実にも存在しています。
7. winter day
8. shortly before noon
インタリュードである『winterday』と繋げて成立するよう制作した楽曲です。パウル・クレー《冬の日、正午の少し前》にインスピレーションを受けて作り始めました。先の絵についてクレーは「矢印なしで、絵として機能する必要がある」と語っていたようで、そのストイックさと叙情的で暖かい絵の印象を楽曲にしたいと思いました。私は《冬の日、正午の少し前》を観た時に、日常に散らばる面白さと悲しさのようなものを感じました。心地良い時間を過ごしているはずなのに、同時に言いようのない悲しみが頭をもたげる……そのような感覚をどこか散文的な歌詞や拡がりのあるヴォーカル処理で表現しました。内なるストイックさや暗さは鋭く重々しいビートで描いています。
9. not you
今の社会は様々な変化の過渡期であると感じています。その渦中で傷付けられている人々の存在をわからなかったり認めないのであれば、あなたと、あなたを取り巻くその世界は変わらなければなりません。変わらない世界で傷付いている人に、変化の責任を押し付けてはいけないのです。
10. break
アルバム全体のインターリュードとして制作しました。タイトルには「小休止」という意味だけでなく、実験的なビートで既存の感覚を「壊す」という2つの意味を持たせています。
11. desert people
今「楽園」に住んでいる人々の中には、「楽園の外」の人を拒絶したり、攻撃にまで及ぶ人がいます。全ての人が住めない「楽園」は本当の「楽園」と呼べるのでしょうか。
12. ascention
地獄の底でも希望を失いたくないという想いを込めました。タイトルは文字通り、天(天道)に昇ることを表しており、この曲を最後に置くことで、アルバム『raise: deva』に戻るという円環構造を成立させています。
Produce, Vocal, Lyrics, Mix, Mastering: kent watari
Cover Photo: comuramai